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(朝日新聞連載 あすを探る 思想・歴史) 16年2月25日 [スズムシ日記]

「無難」な報道機関、必要か 小熊英二

スズムシ:そんなのいりません。新聞もテレビもいりません。学校でも国語の授業で盛んにディベートを活用してください!って声高に言われているのに、報道は中立で公平ですって、そんなのないのです。人が何かものを申し上げた瞬間からもうどこか偏頗するに決まっているのです。安部も高市ももうヒルテリックになってますね。声を荒げて!。あのヒットラーもそうでしたね。声高にヒステッリックに叫んでましたね。ぞっとするくらい似ているのです。顳顬に青筋立てて!!
小熊英二さんの言い分は温和ですね。でも内容はしっかり激越だと僕は思うます。

体調が悪く、医者に診断してもらったとする。そのさい医者が、「××製薬の薬はどれもよく効きます」と言ったらどう思うか。「この医者は公正ではない」と考えるだろう。
 では医者が「発疹が出てますね」「熱が39度ありますね」としか言わなかったらどう思うか。「そんなのは医者失格だ」と考えるだろう。
 それでは、期待される医者の姿勢は何か。「症状を総合すると、△△病と考えられます」「症状を抑えるにはこの薬が効きます」といった提言をしてくれることだろう。
 最近、総務大臣が、不公正な報道に対しては電波停止もありえると述べた。だが不公正とは何だろう。「公正」とは単なる「横並び」ではなく、社会に共有されている「正義」の観念にかなうことである。報道機関もそのために期待される役割を果たすことが「公正」だと言える。
 上の医者の例えから考えてみよう。まず、「××党の政策は、すべて正しい。迷わず支持すべきだ」という報道姿勢は「公正」とはいえない。これは誰でも同意するだろう。
 次に、「政府はこう述べています」「野党はこう主張しています」といった報道姿勢はどうか。確かに「無難」ではあるが、これは報道機関の役割放棄といえないだろうか。
 報道関係者は医者のような専門職ではない、もっと「謙虚」であるべきだ、という意見もあろう。しかし人間は誰しも、何らかの専門職として、それぞれの役割を果たすことを期待されている。それは、医者や弁護士などに限った話ではない。
 例えば八百屋は野菜を、電器屋は家電製品を扱う専門職である。もし電器屋が「××社の製品はどれもお買い得です」と言えば、それは公正ではない。しかし「この冷蔵庫は色が白で、高さは何十センチです」としか言わないなら、「ネット通販で十分だ」とみなされるだろう。
 報道機関の人々は、幅広く情報を集め、それを理解しやすく提示するための専門的訓練を受けている。これが専門職でなくて何だろうか。ならば、専門職にふさわしい仕事をするべきだ。情報をただ流すだけで、専門職としての役割を果たしているといえるだろうか。
 「文句がつかない」ことだけを重視するなら、政府広報と天気予報だけを流すのが、いちばん「無難」であるだろう。ふた昔前の、広範に情報を届ける機関がなかった時代なら、それでも一定の役割を果たしているといえたかもしれない。しかしネットが発達した現在、そんな報道機関は、誰も必要としていない。
 現代の報道機関は、情報を広範囲に届けるだけでは十分ではない。情報を総合し、何が起きているかを診断し、放置すれば悪化することを警告するのは、社会に必要な役割であり、報道の「公正」なあり方である。いわゆる「権力の監視」という役割も、ここに含まれる。
 あるいは、各分野の専門職と協力して、状況を改善するための対策を提示するのも、「公正」な報道のあり方だ。もちろん特定の政治勢力を、何の根拠もなく支持する報道は、「公正」の範囲を逸脱するだろう。しかし、社会が必要とする対策を実現しようとしている政治的動向を重視した報道をするのは、「公正」の範囲に含まれると思う。
 医者にも誤診があるように、報道機関も間違うことはある。しかし現代の視聴者や読者は、特定の報道機関の言うことを何でも信じるほど愚かではない。疑問を感じれば、医者の場合と同じく、セカンドオピニオンを求めて他の機関の報道に接するだろう。それを判断するのは国民であって、政府ではない。そうした意味で、報道の多様性を保障することは、何よりも重要である。狭量な姿勢は国家百年の計を誤りかねない。
 日本の将来は多難である。医者や八百屋や電器屋と同様に、報道に携わる人々も、自信と自覚を持ち萎縮せず職務にあたることを期待する。


 (おぐま・えいじ 62年生まれ。慶応大学教授・歴史社会学。『生きて帰ってきた男』『平成史』など)




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