おはようの5首 [笹井宏之]
きんいろのきりん あなたの平原で私がふれた唯一のもの
「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい
こん、という正しい音を響かせてあなたは笹の舟から降りる
ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす
拾ったら手紙のようで開いたらあなたのようでもう見れません
おはようの 5首 [笹井宏之]
二十日まえ茜野原を吹いていた風の兄さん 風のかあさん
この森で軍手を売って暮らしたい 間違えて図書館を建てたい
真水から引き上げる手がしっかりと私を掴みまた離すのだ
水田を歩む クリアファイルから散った真冬の譜面を追って
滝までの獣の道を走り抜けあの子は歌手になるのでしょうね
えーえんとくちから [笹井宏之]
26歳でこの世を去ってしまった笹井宏之。難病で多くの時間を病床にその身を置いていた。世界はまさに微少だったが、想像の世界は無限であった。笹井の感性は紛れもなく鋭利な刃物のようだ。
これから刻々と笹井の歌をお届けしたいと思う。黄色の帯はなんと本の2/3にも及ぶ奇抜なものだ。黄色の危険信号が僕を釘付けにする。ああ、川上未映子さんが言寄せている。それがまた、いいのだ。『こんなにも透明で、永遠かと思えるほどの停滞を軽々と飛び越えてしまうあざやかな言葉に生まれ変わって、それを体験したことがない他人にどうしえこんな気持ちにさせることができるのだろう』って。
本日まずは第一歌を掲載しよう。
えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい