2011-10-21 [スズムシ日記]
猫に名前をつけすぎると
表題は阿部 昭の奥さんが編纂した阿部の猫談義をあちらこちらからかき集めたもの。古本屋で僕を呼んでたので、ああ懐かしい人だと思って買い求めた。阿部はもうすでにこの世にはいない。
本を読んで見て、阿部が無類の猫好きだったことが分かった。僕が青年のころ、阿部は『人生の一日』で芸術選奨新人賞を受賞した。早速買い求めて、読み漁った。阿部は短編の名手だ。短編の凄さは、無駄口をきかないことだ。世界のことなどのイメージをうまい言葉をみつけていい表す。それが冴えている。人生の一日では、こんなエピソードが記憶に残っている。
ある日、鵠沼海岸にある阿部の家に母親と子どもの二人連れが突然訪問する。目的は宗教関連の本を購読してほしいということ。阿部は無碍なく断る。二人連れはすごすごと引き下がって帰る。二階の窓から覗くと、丁度二人の親子が夕日を浴びて長い陰をつくっている……」
阿部はそのあと後悔のような感慨にふける。自分にとっては何の変哲もない出来事だけれども、あの子どもにとってこの日は人生の中でも決して忘れることのない出来事だったのかもしれないと……。
まあこんなあらすじだったか。こんなあらすじを枕にして、僕は授業に取り入れたのだった。絵をえがいてもらう主題に選んだのだった。題材名もずばり『人生の一日』。5年生に提案したのだが、昨日から生まれるまでのことを遡って記憶にのこっていることをメモにしてください。僕と相談して、その中から一つだけ絵になりそうな場面を決めましょうと、こんな案配の提案だったと思う。その絵は1枚も残っていない。
ところで表題の阿部の「猫に名前をつけすぎると」では、どうなるか。家の人がめいめいに自分勝手に名前をつけて呼ぶと「(前略)けれども、それでは猫は困るのです。ある名前を呼ぶと、全部の猫が、いっせいにこちらを見ます。でも、一匹も返事はしません。(はて、いまのはだれを呼んだのですか?)そのうちに、どんな名前を呼んでも、猫はことらをふり向かなくなります。(そんなヘンな名前、知りませんよ)」となるのです。
本のイラストはあの利根山光人です。猫好きのかた、ご賞味あれ。お貸ししますよ。面白いですから。
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