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家の履歴書 加古さとし その2 [スズムシ日記]

金銭的負担をかけまいと、軍人を志す夢中だった文芸作品を自ら禁じた

 住んだ家は長屋の一角にありました。道路を挟んで、松山の広場の向こうには石神井川が流れていました。長屋の中ほどには高等小学校二年生の「あんちゃん」が住んでいました。あんちゃんの家は貧乏を絵に描いたような家なんです。子沢山で、おやじさんは酒乱。夕方になると、子どもたちがよく裸足で逃げ出してきました。

 そんな家なのに、あんちゃんはとてもよくできた兄貴で、弟妹やまわりの子を集めてはお話をしてくれたり、小石を使った手品で楽しませてくれました。

 更にあんちゃんは漫画が抜群にうまかった。以前、手塚治虫さんとお話ししたときに、「あなたの若いときよりも、あんちゃんのほうがうまかった」と言ったことがあるほど。みんな弟子入りさせてくれと頼み込んでも、隠して見せてくれないんですよ。あんちゃんが広告の裏にサラサラと描いた絵を見ながら、僕も真似して描いたものです。

 だけど、しばらくしてあんちゃんはいなくなっちゃったの。どうしたんだろうと思っていたら、銭湯の前の床屋で、白衣姿のあんちゃんが、だんなに小突かれていたんです。そこで働いていたんですね。銭湯に行く度にそんな姿を見るのがイヤでね、わざわざ遠い別の銭湯に通うようになりました。

 戦争のときに長屋も焼けてしまったので、その後どうなったことか。子どもたちを喜ばせながら導いていく方法のすべてをこのあんちゃんに教えてもらいました。あんゃんが生きていたら、あの頃のお礼を言いたいですね。

(つづく)
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