偽りの支配者 あさのあつこ [スズムシ日記]
少年たちの答え探して 現実と異界が交差
毎日新聞連載「読書日和」は、自然の中にたたずむ作家をまるで、小説の主人公のようにして撮影している。なかなかよいシリーズものだと思う。児童文学のあさのあつこさんが登場しているので、紹介しようと思う。記者内藤麻里子さんの記事です。
偶然ですが、『河原ノ者・非人・秀吉』を読了したばかりなのに、被抑圧の民の物語でもあるようです。そして、僕は今、同書から導かれるようにして、網野善彦さんの『日本の歴史をよみなおす』を読んでいる。抑圧されていたという非人や女性など、これまでの概念をぶち壊してくれものだ。早くに読んでおけばよかったと思う。まさにシンクロニシティーの状態で驚いている。
小学校6年生の透流(とおる)は、クスノキの大樹に導かれるように、父の故郷・雲濡(うんぬ)へ向かう。一方異界ウンヌに暮らす少年ハギは、身分制の中で最下層の民だ。二つの世界が交錯した時、少年たちの闘いが始まった。みずみずしく成長する2人がまぶしい。
児童文学の名手(あさのあつこ)が、6年半をかけて描いた3部作『ミヤマ物語』が完結した。第一部『ミヤマ物語』第二部『結界の森へ』第3部『偽りの支配者』。
「書いているうちに、彼らが背負っているもの、獲得するものなど、描かなくてはならないものが見えてきました」透流はいじめにあっているし、ハギは虐げられている身分。
「例えばいじめは私自身、子育て中に何度もぶつかった問題。ますます悪化する現実を目の当たりにしました」。透流はウンヌで活躍するが、現実のいじめには何の解決ももたらしてはいない。「希望を持って生きるとは何か、現実に帰るとはどういうことなのか、その答えを探すために書きました。考えタプロセスがストーリーになった気がします」
さて、異世界はうっそうとした木々が茂る深い山。「現実と地続きの中で、見る角度により世界が違ってみえることを書きたかった。異世界を書いたという思いはないですね」岡山県生まれ。現在もそこで暮らす。「田舎ですから、人ならぬものがいる空間を感じて育ちました。そこをリアルに書いたんです」
実家には蔵があって、親の目を盗んで夜入ってみると、古い市松人形や長持ちが何だか怖くて、いつも遊んでいた場所とは違う空間が広がっていたという。蔵の隅で、小さな紅い灯がぽっとともったこともある。それはイタチの目だった。「世界が何層にも重なっていて、違う層に入ってしまった感覚です」
暗闇で子どもたちは自在に想像力を広げる。蔵でなくとも押し入れの中や、かぶった布団の下で。闇から生まれる自由さを、今でも覚えているから子どもたちが主人公になる。「それに、10歳前後はおもしろいですよ。こうあるべきだという概念が、傍若無人なほどない。大人な枠からはみ出さないように生きているけれど、その枠を作る前段階だから」
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